2010-03-01から1ヶ月間の記事一覧

#695

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。書斎からの耳慣れない音を確かめに行けば主と猫。青菜をしょりしょり食べているのは純白の子うさぎ。主を問い詰めた乙女は無機質な表情を微かに綻ばせた。「……主様、私はこの子ほど愛…

#694

文字が集まってひそひそ話をしている。そのうちいくつか小さな集まりを作り、言葉になった。小さな集まりがいくつかくっついて文節となり、また集まって文章となる。『私達から表現を奪わないでください。私達のたった一つの自由なのですから』文字達は自分…

#693

「お帰りなさいませ、お嬢様」「おかえりなさーい」ドアを開けると黒髪赤メッシュの執事と振袖の女の子がいた。「……誰?」「お忘れですか。リュウグウノツカイでございます」「フリソデウオでーす」「乙姫様よりお世話と教育の命を賜りました」「……帰れー!…

#692

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。窓辺からひらり舞い込んだ花弁。それを拾い上げ、この屋敷へ初めて来た時の事を不意に思い出した乙女は無機質な表情を微かに綻ばせた。「……主様、またこの季節が巡ってきましたね。初…

#691

光粒子を収束させた刃が伸びる。モードはスタンからバトルへと切り替えだ。ゆっくりと距離を詰めてくる原生獣から放たれているのは紛れもない殺気。小さく数回、深呼吸。覚悟はとうに決まってる。どうせなら生き残って、ここに放り込んだあのバカを殴ってや…

#690

春は別れの季節。先輩達が出て行った寮はやけに静かで少し寂しい感じ。なんて物思いに耽ってたら、玄関先から聞こえてきた元気な声。「ごめんくださーい」「はいな?」「あ、ボク今日からこちらにお世話になります」「ああ、新入生さんだね? よろしく」春は…

#689

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。天気も良く風も穏やかな昼下がり。次の季節へ向けての衣替えと虫干し日和。主が虫干しに忍ばせようとしたものを見た乙女は無機質な表情を微かに強ばらせた。「……主様、ミニ丈、まだ諦…

#688

「ふあ、ぁぁ〜……んー、よう寝たの」「ようやっとお目覚めですか、媛神さま。啓蟄はとうに過ぎてますよ」「うるさい奴じゃな、起き抜けに小言など」「言いたくもなります。媛さまが起きてこないと桜の精たちが困るんですから」「妾の季節じゃからの。さあ、…

#687

あたしマンドラゴラ。毒の女。訴訟沙汰は何とか片づいたわ。どっちも頑固同士だったから、終わってちょうど良かったかもしれないわね。お互い妥協点見出すしかなかったし。……で。その目はなに? あたしが煙草呑んでたらおかしい? これも示談条件のひとつな…

#686

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。執務中の主からリクエストされたのはホットショコラ。何故と思うも疑問はすぐに氷解する。一工夫施されたカップを渡され、乙女は無機質な表情を微かに綻ばせた。「……主様、マシュマロ…

#685

硝子色の魚は何色に染まるのだろう。

#684

「ホワイトデーのプレゼントだよ」「頂く理由がありません」「受け取ってくれないか」「バレンタインに何も差し上げてません」「渡したいから渡すのに」「結構です」「相変わらず冷たいな」「とっとと仕事にお戻りあそばせ」鋼鉄の乙女の牙城は容易く崩れず…

#683

「実在しない人物を恋人と称している女性が今夜、逮捕されました。一人暮らしであるはずの容疑者の部屋からは度々電話以外と見られる会話が行われ、不審に思った近隣住民の通報により当局に身柄を拘束された模様です──」『なによ、死んでまでも彼が傍にいて…

#682

枕を抱えて他愛のないおしゃべり。とっぷり更けた夜の時間、流れていくのはとても早い。寝ぼけ眼に曖昧になっていく言葉。このまま寝かせてあげようか。それとも、少しイタズラしてしまおうか。考えている間に聞こえてきたあなたの寝息。仕方ないな、今夜は…

#681

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。強い風は窓を揺らす。雨と共に季節を巡らせるその風の音を聞きながら乙女はふと思いを馳せる。出会った当初の主を思い出し、乙女は無機質な表情を微かに綻ばせた。「……主様、本当にご…

#680

久々に戻った屋敷で酷い目に遭った。まさかこの私が不覚を取るとは。いや、それに見合うだけのものはあったが。さて、戻りたるは眠らない不夜城都市。異形と異能の跋扈する街。今宵の獲物は夢魔の群れ、相手にとって不足なし。──白手袋を嵌めた鋼鉄の執事は…

#679

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。屋敷に数回ほど響いたくしゃみ。風邪? 花粉? 慌てて主の様子を見に行けば、猫にブラッシングの真っ最中。溜息混じりの乙女は無機質な表情を微かに顰めた。「……主様、無精なさって窓…

#678

もう大丈夫、と思ったのに。時がどれほど流れても、夢は不意打ちだ。あなたの声、仕草、体温、吐息。すべてが鮮明に、ついさっきの事のように思い出せてしまう。夢は卑怯だ。私の時間を、あの時に引き戻してしまう。……でももう少しだけ。この余韻に酔う事を…

#677

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。珍しく屋敷内ではなく広い庭の整備へ。折しも吹く風は長いスカートの裾を翻す。そして急に吹き込んだ強い風に裾を弄ばれた乙女は無機質な表情を微かに赤らめた。「……主様、即刻消去し…

#676

翡翠色の髪を持つ歌姫の歌声は、遠く遠く、いろんな世界へと届く。ありがとう。歌姫はそう呟く。わたしを謳わせてくれて、愛してくれて、ありがとう。大好きな────。けれどその言葉は、ありがとうの言葉は。歌姫へと向けられた花束でもあるんだ。3月9日はあ…

#675

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。ひと雨ごとに春が近付くとはいえ今日は寒い。何か良い案は、と思案した所に猫。主を真似るよう猫を抱き締めた姿を当の本人に発見された乙女は無機質な表情を微かに赤らめた。「……主様…

#674

滅び行く世界が美しいなんて誰が言ったの。確かに命は有限、無限に続く永遠のものじゃない。だからってただ死を待つヒトなんて誰もいない。だから、あたしは戦うよ。抗うよ。精一杯自分の為に。自分の大切なヒト達の為に。なにもしないで嘆いているより、可…

#673

ゆらゆらと揺れてたゆたうあたしはあなたの海の海月

#672

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。屋敷の中をふよふよと白い綿毛のようなものが飛んでいる。もしや幸運のケセラン・パサラン? 箒を携えて追った先で見つけた猫に乙女は無機質な表情を微かに綻ばせた。「……主様、案外本…

#671

僕は迷いなく、差し伸べられたその手を取った。君と一緒にいたい、君に触れていたい。だから僕は君をぎゅっと抱き締める。遠くで誰かの悲鳴が聞こえた気がしたけど、これでもう、二人は一緒だね──いついつまでも。永遠に。なにも僕達を別つ事はできない。

#670

遠くを見つめるあの娘の眼にこの世界は映っていない。その硝子色がなにを映し出しているのか、娘以外誰も知らない。その双眸ごと魂ごと、いつか見えざるなにかに連れて行かれてしまうのではないかと親である私達は気が気でない。ああ、今日も娘は虚空へ微笑…

#669

どこまでも深いその瞳に吸い込まれそう、と思った時にはもう、僕は君に囚われているんだ。

#668

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。屋敷の窓から見えるのは名残雪。寒の戻りに猫を抱えて離さず、挙げ句引っかかれた主の手当てをする乙女は無機質な表情を微かに隠した。「……主様、寒いなら仰ってくだされば、その、暖…

#667

あなた以外の声を聞きたくなくてヘッドフォンで耳を塞ぐ。MP3プレイヤーから音楽をただ流す。あなたのいない空間はなんだか虚ろで、退屈で。待つだけの苦痛が身体を焦がす。そしていつの間にか転た寝してたのだろう。帰ってきたあなたにゲンコツ付きで怒られ…

#666

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。ようやく常のロング丈に戻れば、屋敷も何故か落ち着きを取り戻す。そんな折、屋敷を訪れた珍しい客人に乙女は無機質な表情を微かに綻ばせた。「……主様、ほら、カエルさんですよ。一足…