2010-05-01から1ヶ月間の記事一覧

#756

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。主のうっかりで定期点検が滞ってしまった。差し障りがないよう注意を払うも不意に視界が歪む。応急処置を施した乙女は無機質な表情を微かに顰めた。「……主様、眼鏡を掛けただけですの…

#755

スーツの窓口、ジャケットから覗くシャツのVゾーン。そこを彩るネクタイの色柄、スーツとの組み合わせ、結び方である程度人柄がわかってしまう……というのは一般論。ねえ、知ってる? ネクタイっていろいろ使い道があるのよ。こうして引き寄せて、緩めて、そ…

#754

ドッペルゲンガーと出会ったら互いのアイデンティティをかけて戦わなければならない。負けた個体は生きていく資格を失ってしまうのだ。だが。「殺し合いなんざスマートじゃないんだよ。どうせなら共生共存と行こうじゃないか」仕掛けを待つ詐欺師の男はにや…

#753

逢いたいと想う気持ちが、願う心が罪になるのならば、身を切り裂いて殉じましょう。そして逢いたいというその祈りはせめて、月へと還しましょう。月の雫があの人の元へときっと届けてくれるのだから。

#752

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。賑やかな主とは対照的に大人しい動物たち。猫は気怠げ、小兎は眠たげ。ああ、そうか。雨の季節が近いのだ。二匹を見つめる乙女は無機質な表情を微かに綻ばせた。「……主様、雨の季節に…

#751

転た寝をすれば額に冷たい感触。また子供が碁石か小石で悪戯をしているのかと振り払えば鈍い痛み。薔薇の刺で裂いたような傷に浮かび上がる血は体温計のようだ。いや、温度計の方だったか。朔月を窓に墓石を扉に死人が訪れるなら。「来いよ、誰よりも恋しい…

#750

小石を蹴るように碁石を爪弾いた。乾いた音を立てて墓石に当たる。罰当たりだろうが構うもんか。化けて出るなら来いよ。お前との勝負は一度も着いてないんだ。これじゃ恋しい相手に焦がれてるみたいじゃないか。夏日を示す温度計が虚しく揺れ、空には伽藍の…

#749

旧暦の朔日で朔、新月の今日、神社にお参りすると願い事が叶うんだっていう。藁にもすがる思いで行ったら外陣の前で碁を指してる二人がいた。おじいさんと若い男の人。「おや珍しい客人だのぅ」「それに恋しき人の悩みを抱えている」見透かされてあたしは赤…

#748

囲碁を知らない私に貴方が教えてくれたのは連珠だった。碁石──珠が盤面できらきらと輝く様が好き。冷たい黒、滑らかな白、どっしりと構えた濃緑、儚い淡緑。そして「とっておきだよ」と見せてくれた瑪瑙と翡翠。私は貴方ではなく珠に魅せられたのかもしれな…

#747

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。季節の移り変わりに合わせ、屋敷内のカーテンが掛け変わる。重厚で落ち着いた色から明るく柔らかな色へ。その様子を見守る主に乙女は無機質な表情を微かに綻ばせた。「……主様、またひ…

#746

とってって。「ん?」つんつん。「あ、悪ぃ。水なくなってたか」ぐりぐり。「あーもー、悪かった。悪かったって」ぷい。「頼むから拗ねるなよ」ぷんすか。「だから怒るなって」……すりすり。「ん、良い子だ。俺のお姫様」……かぷっ。「って。気まぐれにも程が…

#745

生まれ落ちた時からひとりきりで、ただなく事しかできなかった。泣いて鳴いて啼いて。そんなぼくの声を聞いてくれたのは、きみ? #twnovel 気になったから旅に出てみたの。耳につく哀しげな声。もう、オトコノコでしょ? いつまでもないてないでトモダチにな…

#744

その世界には“生”というものがなかった。充満するのは“死”の臭気。命なき偽りの生、屍たちの世界。死せる者たちは争い、喰い合い、果てなき闘争を続ける。何故。その理由を誰も知らない。そうする事だけが至命のように刻み込まれた意識。その果てに本当の命…

#743

「おかえり」帰りの合図をするとさほど時間をかけずに戸を開けてくれた。待っててくれたのがなんだか嬉しいな。部屋に一歩入ったところであたしの動きは止まった。──誰、その女。あたしというものがありながら浮気!? 許せない!「猫怒ってる?」「見てない…

#742

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。最近静かだった書斎が何やら騒がしい。こういう時はろくな事がないのだが、意を決して扉をノック。眼前に広がる惨状に乙女は無機質な表情を微かに顰めた。「……主様、片付けられないな…

#742

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。最近静かだった書斎が何やら騒がしい。こういう時はろくな事がないのだが、意を決して扉をノック。眼前に広がる惨状に乙女は無機質な表情を微かに顰めた。「……主様、片付けられないな…

#741

旅が終わらない。いつ始めたかなんてもう、遠い昔の事のように思える。トランクひとつだった荷物はコンテナひとつに膨れあがった。ゴールはどこだろう。抱えた荷物は重すぎて、あたしは遠くを見つめる事しかできなかった。 http://twitpic.com/1n5rd4写真とt…

#740

我が家の飼い猫が家出した。いや、正確に言うならば旅に出た。残された書き置きには簡潔に一言、『どらごんをたおしてきますにゃ』。君は黒猫だけど普通の猫だよね? ねえ、なんで? #twnovel 半年後、帰ってきた猫は、同じくらいの背丈の小さな白い竜を連れ…

#739

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。季節毎の花が咲くたび指折り数えるのは、仕え始めてからの日々。ひとつたりとも無為な日たり得ぬ日々。巡る思い出に乙女は無機質な表情を微かに綻ばせた。「……主様、これからもお傍に…

#738

月がほしい、とあの人は言った。手が届かない天空。無理だとわかっていてあの人は僕に言ったのだ。でも、僕は。 #twnovel 僕は原石を砕き削ぎ、結晶を磨いた。夜空に見立てた紫金石の杯に浄い水を満たして月を待つ。それが中空にかかる頃、杯には満ちる月。…

#737

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。古書から手繰るいにしえの物語。ある王は国と民を守るべく自ら禁を破ったという。私ならば、と思案する乙女は無機質な表情を微かに綻ばせた。「……主様、私は盾にも矛にもなりましょう…

#736

「昔々、さる国ではたった数百人で数万もの軍勢に立ち向かった、勇敢な者達がいたそうだ。今宵の私はそれにあやかるとしようか」男は己を取り囲む異形らを一瞥すればそう嘯き、白手袋の具合を確かめた。こちらは単騎、あちらは百にも満たず、といった所か。…

#735

「ほにほにふにふに」「人の頬で遊ぶのはやめなさい」「やだ」「仕事ができないじゃないですか」「集中できないのが悪い」「人の邪魔をしておいてその言いぐさですか」「構ってくれないから、あたしが構ってあげてるの。文句ある?」「仕方のない人だ。膝く…

#734

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。もうじき季節の一区切り。なにかできないものかと思案した乙女は古書を漁る。古ぼけた香りは時代の扉。いつしか微睡んだ乙女は無機質な表情を微かに綻ばせた。「……主様、私でも夢を見…

#733

「君はその石が輝きに満ち、最上の冠を戴くと言うが、私から見れば他の貴石以下だ」「金剛の位と名を持つというのに?」「ああ。焔と運命に翻弄されるそれは、人の子の生のようだね」竜の子は巡りついた金剛石に触れる事もなく、焚き火に揺らぐそれを見つめ…

#732

「スキマの時間」を「スマキの時間」と読み間違えた。それから僕には隙間というものが存在しなくなってしまった。隙間という隙間に、まるで蓑虫のような簀巻きにされた「ナニカ」が挟まり込んでいるのだ。 #twnovel うなされて目が覚めた僕の目に飛び込んだ…

#731

今日は風が強い。ばたばたと洗濯物が暴れてる。こんな日はきっと、絶好のチャンス。さあ、狙いを定めよう。 #twnovel しっぽをぴーんと立てて準備態勢。そう、狙うは大物こいのぼり。美味しそうだからだけじゃないのよ。空で感じる風をあたしも知りたいの。…

#730

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。主にも秘めたるものが乙女にはひとつだけある。絶対に知られてはいけないもの。閉ざした箱の小さな鍵は胸元で今も眠っている。問われれば乙女は無機質な表情を微かに綻ばせるだろう。…

#729

ころころ。硝子色のさいころが転がっていく。表れた賽の目をひとつずつ記し、項目を埋めていく。この人は結婚二回。この人は交通事故。この人は望まない愛人が、えーと。ころころ。十人、と。 #twnovel 硝子色の六面体ふたつが転がっていく。ころころ。これ…

#728

ふしゃーって怒って毛を逆立てすぎてたら、ある日あたしの毛がほとんど針になってたの。怒るとぴんって立つのよ。「はりねこ」とか珍しがられたわ。でもね、それであたしは独りになっちゃった。ヒトもネコも、みんな寄ってこない。カミサマお願い、もう怒ら…