#794

「人は面白い生き物だね。退屈しない」「そりゃアンタみたいな奴から見りゃ、人生なんざ一瞬だろうさ」「歪さを内包するからだろうか。君達は真円にも似た完璧さを求めずにはいられない」「何が言いたい?」「人はこの真珠のようだ、とね」「そこまで純粋じ…

#793

それは突然だった。空を切り裂いて響く音は紛れもなく殺気を孕むのは己を屠る気満々だ。「理由が思い浮かばないのだけれど?」「理由はいりません。私が貴方を嫌いだという事で充分です」「酷いなぁ」鋼鉄の執事の襲撃とも言える夜這いはこうして失敗した。…

#792

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。突如響く轟音。何者かの襲撃かと身構える主を余所に音の主は、涼やかな表情のまま。構えを解いた乙女は無機質な表情を微かに綻ばせた。「……主様、鋼鉄の執事亡くとも私がおります」オ…

#791

薄暗い空間に集った男女。ここでは年齢も地位も肩書きも関係ない。たったひとつ、唯一の共通点のみが彼らを繋ぐ点であり線であり絆である。140文字という限られた数字で物語を紡ぎゆく、吟遊詩人達がここにいる。さて、webの奇跡はなにを生み出すか。二回目…

#790

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。珍しく主が庭で何かをしている様子。不思議に思い覗き込めば、失われた国の旗や紋章が並んでいる。偲ぶような主の様子に乙女は無機質な表情を微かに綻ばせた。「……主様、今尚敬意を忘…

#789

ピンキーリングはいつも左にしている。試しにちょっとサイズ大きめのピンキーを右につけてみた。……なんだろう、この違和感。多分きっと、貴方の左側が私の定位置なように、ピンキーリングは左の小指が定位置なんだわ。左が定位置のピンキーリングを右につけ…

#788

僕の家に掌サイズの猫と狐が訪ねてきた。訊けば神様のお遣い、神使としての修行中できちんとお役目が果たせるかの試験中なのだという。でも僕は二匹の後ろからえっちらおっちら歩いてくる、やっぱり掌サイズのペンギンに釘付けだった。さて、お遣いの証であ…

#787

降るのか降らないのか、曖昧な空模様はまるで私の恋心のよう。

#786

ラ・ピュセル、僕の乙女。貴方はそう言って私を大事にしてくれた。愛してくれた。けれどそれは私を鳥籠に閉じこめてしまう為だった。ラ・ピュセル、僕の乙女。永遠に貴方の乙女でいたかった。真実に気付きたくなどなかった。これは私の罪。愛を知ろうと散ら…

#785

夢を見た。愛しいあの人と過ごした僅かな時の、あの夢を。むせかえるように匂い立つ花が咲く庭に、月下。散る事なく漂う香りに酔ったのだろうか。もう朧げなはずの、あなたの顔。夢の中でなら鮮明に思い出せる。これは花が見せた夢。月が魅せた浅き夢の残り…

#784

娘が傷ついた鴉を拾ってきた。泣き落としに根負けし、私は手当てをしてやる。その晩の事だ。「もし、お願いがひとつございます。南あふりかへの道を教えていただけませんか」よく見ればこの鴉、三本足で勾玉を下げている。 #twnovel 地球儀で道を教えた迷子…

#783

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。穏やかな静寂を切り裂くよう響く金属音。一体何事かと書斎の扉を叩き開ければ正体は意外なものだった。どっと疲れた乙女は無機質な表情を微かに顰めた。「……主様、ブブゼラなんてどこ…

#782

もしも宇宙が140歩分しかなかったら。はじめの一歩は太陽から。水星、金星、地球、月、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星……数歩ごとに惑星を刻む。そして星座の海に辿り着いたなら。広大なはずの宇宙が140歩だったら、この場所は何歩めだろう。毎月1…

#781

「月面駐留軍より入電。『貴艦の来訪を心より歓迎する』」「まるで社交辞令だな。それも仕方あるまい」「艦長……」「我らが地球より発って何世紀が経つ。彼らにとって我々は招かざる帰還者だろう」「あ、再度入電です。『おかえりなさい、ヴァンダーファルケ…

#780

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。書斎の整理中に見つけた古い箱。埃を払い静かに開けてみればそれは謳う匣、自鳴琴。雨音と共に奏でる音色を聴いた乙女は無機質な表情を微かに綻ばせた。「……主様、この曲を以前聴いた…

#779

なにを書こうか迷っているうちに、元々少ない携帯の電池はどんどん減っていく。意を決して書き出してもキーを押す指先が止まる。なんて書けばいい? なんて言えばいい? ただ謝りたいだけなのに。ごめんなさい、の一言が遠い。バッテリー切れの音と同時に、…

#778

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。季節ごとの旬の果実をいただくお茶の時間は主の密かな楽しみ。ノックした書斎のドアを開けた乙女は無機質な表情を微かに顰めた。「……主様、枇杷に琵琶をかけたいのはわかりましたから…

#777

「出番まだかいのー」「その台詞何度目じゃ」「出番まだかいのー」「ええい、話を聞かぬ狛犬じゃな」「出番まだかいのー」「飽いたと言うておろうが!」「出番まだかいのー」「……誰じゃ、こないな狛犬と妾のような狐を並べて置いたのは」 #twnovel 石屋は賑…

#776

恋の季節、昼夜問わず鳴く猫が神社に呼び出された。眼前には守護神獣である狛犬と獅子。「そちはよぅ鳴くの」「苦情がちぃとな」「でも、ボク」「わかっておる」「わしらも立場ゆぅもんがあってな」あぅんと鳴く猫は、こうして夜の間だけ阿吽の猫としてバイ…

#775

夜明けのカフェオレは目覚めの為ではなく、眠りの為に。さよなら、貴方。永遠に。

#774

ボクなんかよりも全然男らしいし一人でも平気だろう? それが元彼の最後の台詞。ムカついたから殴っといたけど。平手じゃなく。前も似たような事を言われて振られた。だからあたしは決めたの。 #twnovel 会社でもキャバクラでも女の子にモテるあたしを見て悔…

#773

「そこにお座り、使い魔や」「にゃあ」「都合の悪い時だけ猫に戻るものではなくてよ」「にゃあ」「あなた、お遣いも禄にできていないわね?」「は、はぅ。それは……」「もう一度とっととお行きなさい。速やかに」「は、はいぃぃぃ!」 #twnovel 「これでまた…

#772

「式鬼さん、ちょっとそこにお座りなさい」「なんでつか?」「あなたにお遣いを頼んだはずですが」「あい」「肝心のものはどうしました?」「落とちまちた」「なっ……大事なものなんですよ!?」「落とちまちた」「……拾ってらっしゃい」「あい」 #twnovel 「…

#771

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。初夏とはいえ雨の日は冷えるもの。肌寒いのか、自分へと擦り寄る猫と子うさぎに向ける主の視線は些か険呑のもの。それに気付いた乙女は無機質な表情を微かに綻ばせた。「……主様、皆で…

#770

まじないをしてあげましょう、と女は言った。葡萄酒の中に己が片耳より緑玉を落とす。疑わず驕らず、この杯を飲み干す事、さすれば糧と酒の恵みは失われないでしょう。かくして男は飲み干すや酒に溺れる事はなくなった。人は言う。彼の人は竜の貴婦人、旅す…

#769

その男は化粧師だった。その粧いを施す相手は女ではない。ましてや生者でもない。では誰に。男は答える──死者の為に。骸に施す化粧は生者の為。ならば、と男は死せる者の魂へと粧を施すのだ。旅路へ向かう魂があるべき姿であるよう、気高く誇れるよう、男は…

#768

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。先日の変装騒ぎがあった為、主から執事服を取り上げた。どこに仕舞おうかと思案すれば望まざる来訪者からの声。うんざりとした乙女は無機質な表情を微かに顰めた。「……主様、鋼鉄の執…

#767

鋼鉄の乙女は今日も規律正しく折り目良く礼儀作法に則って仕事をこなす。ふと視界には見慣れぬ者。屋敷のセキュリティは万全のはずだが万一の場合もある。徒手が空を切ったその時、正体に気付いた乙女は無機質な表情を微かに顰めた。「……主様、執事服で変装…

#766

初めてのレシピを試す時はいつもドキドキする。私とあなたじゃ味覚も好みも違うし、それに下戸と呑んべ。でも大丈夫、私には魔法の隠し味があるもの。「気持ち、少しだけ味を濃いめに」あなたが教えてくれた事。私がしょっぱくなくて、あなたも満足できる匙…

#765

いつもの挨拶、いつもの会話。おはようから始まっておやすみで終わる。そんな何の変哲もない日常。変わり映えしない毎日で退屈ではないの、なんて人は言うけれど、私は幸せだ。大切な愛する人と日々を過ごせているのだから。たまぁにケーキや花束なんていう…